福岡地方裁判所小倉支部 昭和44年(ワ)980号 判決 1971年3月24日
原告 岩田和征
右訴訟代理人弁護士 河野善一郎
被告 洞海木材株式会社
右代表者代表取締役 松尾荘六
右訴訟代理人弁護士 小川章
主文
被告は、原告に対し、金一三一万二、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年一〇月七日より支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の、各負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
一、(本件事故の発生)
本件事故の発生に関する請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。
二、(被告の運行供用者責任)
本件事故は、被告の被用者訴外守田泰利が運転する、被告所有の本件乙車が駐車して、本件甲車の荷台より本件乙車の荷台へ丸太材を積替え作業中、本件乙車の荷台より約三、四米後方にはみ出していた右丸太材に、本件自動二輪車が衝突し、よって原告が傷害を受けたものであり、右事実は当事者間に争いがない。
≪証拠省略≫を綜合すると、昭和四三年一〇月六日午前零時頃、被告の被用者である訴外守田幹雄は、本件甲車を運転し、その荷台に長さ約一〇米の丸太材一四三本を満載し、同じく被告の被用者である訴外守田泰利は、その荷台が空の本件乙車を運転し、共に福岡県築上郡築城町大字下別府国道一〇号線上を豊前方面から行橋方面に向けて進行中、本件事故現場の同町大字下別府二、一七九番地先同国道上にさしかかった際、本件甲車の右後輪がパンクしたため、本件甲車の荷台の丸太材を本件甲車から本件乙車へ積替えざるをえなくなったこと、そこで当初、道路の左側端に停止していた本件甲車の前に本件乙車を付け、本件甲、乙両車の運転手、本件甲車に同乗していた運転助手二人、本件乙車に同乗していた被告代表者等において、積替え作業を開始したが、かなり手間がかかるので、途中から本件甲車の右側に本件乙車を横付けにし、積替え作業を行っていたものであるところ、右積替え作業開始後約二〇分を経過した頃本件事故が発生したものであるが、本件事故が発生しなかったならば、本件乙車はもうあと約一〇分以内に右積替え作業を終って発進していたこと、以上の事実を認めうる。右認定に反する証拠はない。
ところで、自動車損害賠償保障法第三条にいう自動車の運行とは、同法第二条第二項により自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいうが、それは自動車をエンジンにより移動させる場合に限らず、右認定の本件乙車のように、積荷替えのため走行と走行の中間に自動車を短時間道路上に違法駐車させる場合をも含むと解すべきである。
そうすると、本件乙車の右運行と本件事故の発生との間に相当因果関係があり、かつ、本件事故発生当時、被告の被用者で本件乙車の運転手であった訴外守田泰利が被告の業務執行中であったことは、当事者間に争いがない請求原因第一項の事実により明らかであるから、被告は、本件事故当時、本件乙車を自己のために運行の用に供していたものであり、運行供用者責任を負うものというべきである。
三、(免責)
被告は、本件事故の発生につき被告側になんら過失はなく、本件事故は専ら前方注視を怠った原告の重大な過失に起因する旨主張する。以下この点について検討する。
≪証拠省略≫を綜合すると、本件甲車の右側に道路片側車線を完全に塞ぐ形で本件乙車を並列させ、本件甲、乙両車の運転手、運転助手において丸太材の積替え作業中、被告代表者は、右丸太材の後端につけて来た赤色ランプ(電球そのものの直径が約二糎半、その電球の枠を含めると直径約一〇糎位のもの)のコードが四、五米位予裕があったので、その距離だけ更に後方の中央線付近に立って右ランプを振り後方から進行して来る車輛に合図誘導して交通整理をしていたこと、本件自動二輪車が本件事故現場に差しかかる以前には豊前方面から行橋方面へ何台かの自動車がやって来たが右誘導に従って安全に通過して行ったこと、しかし、ヘッドライトの視野が狭い単車が来ることは被告代表者において予想せず、被告代表者のなした右誘導も単車に対するものとしては必ずしも充分なものでなかったこと、また本件事故現場はその後方約一〇〇米先の地点で後方に向って左にカーブし、しかも後方に向って道路左端は土手になっているため、右カーブ地点より先は見通しがきかず、附近には街灯がなく、また駐車中の本件甲、乙両車には尾燈がついていたが、本件事故発生直前には殆ど積荷替え作業が終っていたため、道路左端に沿って駐車していた本件甲車の荷台は殆ど空になり、その尾燈は後方から見える状態にあったのに対し、その右側に並んで駐車していた本件乙車の荷台は満載に近くなり、その荷台から後方にはみ出した丸太材のためその尾燈は後方から見えない状態になっており、右のような状況下で、原告は、無免許でしかも飲酒のうえ、本件自動二輪車を時速約四、五〇粁で運転し本件甲、乙両車の後方約一〇〇米地点のカーブを廻り本件事故現場に差しかかったが、被告代表者のなしていた右交通規制に気付かず、道路左端に駐車していた本件甲車の尾燈に気付いて、その右側を通過しようとして右にハンドルを切ったが、思いもよらず本件甲車の右側にさらに本件乙車が駐車しているのを発見し、さらにハンドルを右に切って衝突を避けようとしたが間に合わなかったこと、以上の事実を認めうる。≪証拠判断省略≫
右認定事実からすると、本件事故の発生は、原告として、ヘッドライトの光度不足のため前方の見とおしが困難な状況であったから、いっそう前方注視につとめ、右光度に応じて減速して進行すべき注意義務があるのに、これを怠った原告の重大な過失に起因することもさりながら、道路交通法第四八条第一項に違反して本件甲車の右側に本件乙車を並列して駐車させ、その結果道路片側車線を完全に塞ぎ、交通の妨害となる状態を生ぜしめた訴外守田泰利の過失にも起因することは明らかである。
よって、被告主張の免責の抗弁は、失当であり、被告は、自動車損害賠償保障法第三条により、本件事故によって生じた原告の人損を賠償する責任がある。
四、(過失相殺)
前記認定事実によると、本件事故発生につき、原告および訴外守田泰利の双方に前記過失があったものと認めうるところ、右両者の過失割合は、原告六、訴外守田泰利四、と認めるのが相当である。
五、(損害)
(一) 治療費
原告が、本件事故のため、友尾医院、小倉市立病院に入院し、その治療費として合計金一一〇万円を支払ったことは当事者間に争いがない。
右金一一〇万円を前記の割合に応じて過失相殺すると、被告の賠償すべき額は金四四万円となる。
(二) 逸失利益
請求原因第三項(二)の事実は当事者間に争いがない。
よって、本件事故により、原告が喪失した得べかりし利益の本件事故当時の現価は、原告主張どおり金六五八万円となる。
これを前記の割合に応じて過失相殺すると、被告の賠償すべき額は、金二六三万二、〇〇〇円となる。
(三) 慰藉料
被告において本件事故による原告の精神的損害を慰藉すべき額は、前記の本件事故の態様、過失割合、傷害の部位程度、治療期間等諸事情を考慮すると、金八〇万円と認めるのが相当である。
(四) 損害の填補
本件事故に関し、原告が自賠責保険金等により金二五六万円の支払を受けていることは原告において自認するところであるから、右(一)ないし(三)の合計額金三八七万二、〇〇〇円から右金二五六万円を控除する。(その残額は金一三一万二、〇〇〇円である。)
六、(結論)
以上の理由により、被告は、原告に対し、金一三一万二、〇〇〇円およびこれに対する本件事故の日の翌日である昭和四三年一〇月七日より(遅延損害金の起算日は事故の翌日と解すべきである。)支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告の本訴請求は、右限度で理由があり、その余は理由がない。
よって、原告の本訴請求は右理由がある限度でこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 寒竹剛)